[第29回日本乳癌学会学術総会より]
より良いがん治療に向けた
Patient Advocacyの取り組み

#Patient Advocacy Leadership #乳がん #日本乳がん学会 

2021年7月1日から3日にかけ、パシフィコ横浜ノースにおいて第29回日本乳癌学会学術総会が開催された。前回は新型コロナウイルス感染症が広がるなか、完全にWeb形式で実施されたが、今回は初めて現地開催とWeb配信(一部)とのハイブリッド形式で実施され、オンデマンド配信も行われた。
ここでは「乳癌診療の新たな展望」というテーマのもと開催された今総会で、オンデマンド配信で行われた「Patient Advocacy Leadership(PAL)セミナー」のうち、最初のセッションを抜粋して紹介する。


「なぜ学ぶのか?」
Patient Advocacyリーダー育成の現状と課題


Patient Advocacyとは、患者の権利を擁護・支援する活動である。日本乳癌学会学術総会のPALセミナーは、主として患者を対象に乳がん治療に関する最新の動向を共有することを目的に、当該総会での最新情報や治療動向などについて学ぶために行われている。今総会では、「1)Patient Advocacy Leadership育成に向けて」、「2)PALセミナー基礎講座 ダイジェストその1」、「3)PALセミナー基礎講座 ダイジェストその2」、「4)PALセミナー応用講座」という4つのセッションが行われた。


「1)Patient Advocacy Leadership育成に向けて」セッションは、座長にNPO法人がんサポートかごしまの三好綾氏と、日本乳癌学会理事長・杏林大学医学部乳腺外科の井本滋氏、演者に井本氏と帝京大学医学部・緩和医療学講座の有賀悦子氏、キャンサー・ソリューションズ株式会社・一般社団法人CSRプロジェクトの桜井なおみ氏、パネリストには兵庫医科大学 乳腺・内分泌外科 三好康雄氏をむかえて開催された。


冒頭、座長の三好綾氏よりPALセミナーに関するオリエンテーションが行われ、PALセミナーは主として患者を対象に、乳がん治療に関する最新の動向などについて学ぶことを目的に実施されるもので、参加者に対して「たくさんのことを吸収し、自分自身のためにも、乳がん患者である仲間のためにもともに学びましょう」と呼びかけられた。


続いて井本滋氏が「『PAL育成に向けて』乳癌学会が患者協働に期待するもの」という演題で講演を行い、日本乳癌学会のこれまでの歩みと今後の動向について紹介するとともに、日本乳癌学会理事長としての達成目標である「次の10年に向けて学会の活性化を図る」というビジョンと、「国民が安心できる乳癌診療を提供する」というミッションについて概説した。さらに演題に掲げた「協働」の一例として、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)保険収載に至る活動を挙げ、学会と患者団体双方の理解を深めることと、PALセミナーなど継続性があるセミナーの実施、学会・患者団体の協働による政策提言などを実行していくことが、これからの乳がん治療をより良い治療に繋げられるのではないかと結んだ。


次に有賀悦子氏が、「国内学術団体における患者参画プログラム」というタイトルで、国内の学術団体における患者参画プログラムについての講演を行った。最初に世界保健機関による「患者エンゲージメント」について触れ、それは患者中心の安全で質の高い医療の実現のために、患者自身が積極的にケアに関与していけるような「患者・家族・介護者・医療者がともにその能力を広げていくプロセス」であり、良い医療の実現のためには患者と医療者の二人三脚が不可欠であると述べた。またPALという言葉は、一般的には「Patient Advocate “Lounge”」と、患者家族およびともに歩む人々が集う「場」ともいわれているが、日本癌治療学会では「L」を「ラウンジ」ではなく「リーダーシップ」として取り組んでいると報告した。国内では他にも日本臨床腫瘍学会、日本癌学会、日本緩和医療学会、日本サイコオンコロジー学会などが患者参画プログラムを設置しているが、ここにあらためて日本乳癌学会を加えるべきと語った。学会による患者参画プログラムは、より良い医療の実現を目的に発展してきており、増加傾向にある。その中から日本癌治療学会での12年における取り組みを紹介し、学術団体間での横断的な取り組みにおいて「いかに差別化をはかるのか」、「投入した予算に対するアウトカムをどのように取るのか」といった課題について解説し、最後に患者・市民参画(Patient and Public Involvement、PPI)の教育プログラムの検討に関する報告が行われた。


桜井なおみ氏からは、「乳癌学会における患者・市民参画の推進に向けた提案」に関する講演が行われた。まず背景として、乳がん領域においては古くから患者会活動が活発であったものの、地域で活動する患者会や患者同士の横のつながりに関しては十分でなく、今後さらに関係者の連携が求められること、同時に複雑化する要請内容に対応するために、学会と足並みをそろえて科学的な根拠に基づいた提言が必要であるといったことなどが挙げられた。続いて他学会・他団体での取り組みとして、英国における患者と研究機関の関係や、米国がん学会(AACR)における患者市民参画プログラム、米国サンアントニオ乳がんシンポジウムでのスカラーシップを出しての患者参画の内容が紹介された。諸外国においては患者の声を学会のプログラムに積極的に取り入れていくことがスタンダードになっており、国内でも日本癌学会や日本肺癌学会などでは患者市民参画が積極的に行われている。患者参加・参画の機会はさまざまであるが、「自分自身のために行動する」ことと、「他の人のために行動する」こと、さらには「社会に呼びかけて行動する」という“公益”が重要であり、参加と参画の違いを考えた場合、参加は「患者・市民が研究計画の『研究参加者』となること」、参画は「患者・市民が研究者とパートナーシップを結びながら、自分の計画、デザイン、管理、評価、結果の普及に関わること」であって、学会として取り組むのであれば、一定の規制やルールのもとで後者を目指すべき、と結んだ。


3つのレクチャーのあとに行われたディスカッションでは、次回2022年開催の第30回日本乳癌学会学術総会会長でもある三好康雄氏を迎え、Patient Advocacyのリーダーが目指すべき方向性から、倫理委員会などへの患者の参画、治療方針策定に関する患者と医療者との協働などといった今後の展望まで、活発な意見交換が行われた。

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